私は総合病院の循環器科の看護師として働いていました。
循環器には、何度も心不全を繰り返して入院される方がおられます。
はじめの入院は80歳代の奥様だけでしたが、旦那様も心不全を発症し夫婦で入院されることになりました。
入院、退院を繰り返し少しづつ悪くなり、2人とも動くことが困難なため移動は車椅子で、ほぼ介助を要する状態でした。
お二人には息子さんが1人おられました。
仕事をしながら両親の介護もされていました。
大変なことは手にとるようにわかるぐらい、だんだんと髪はボサボサになり、服はクタクタで息子さんは本当に疲れておられるようでした。
しかし、いつも笑顔で優しくご両親に接しておられ、看護師に対しても穏やかで、いつもありがとうと話してくださる方でした。
ご両親と息子さんはとても仲良く毎日着替えを持ってきて下さり、嫌な顔せず息子さんが自ら体を拭いたりオムツを替えたりしてされていました。
私達も息子さんのほうが気になり、今後受けられるサービスや退院後の生活など、色々と話しました。
ある時お母さんの方が足の閉塞性動脈硬化症を発症し、治療を受けても改善がみられずに壊死を起こし、両足を膝から切断することになりました。
手術自体はうまくいきましたが、長い入院をすることになりました。
これを機に息子さんは仕事を辞め、両親の介護だけをされることになったようでした。
長い入院でお母さんの認知症が徐々に進行し、大切な息子さんのこともわからなくなりつつありました。
しかし、経過もよいため自宅へ帰れることになりました。
息子さんは両親の介護をしながら毎日リハビリのために病院へ通い、ごはんやトイレ介助など一手に引き受けて生活されていましたが、容体が悪化し入院後お母さんは亡くなられました。
死後の処置に入らせていただく時に息子さんが、「僕も一緒にさせてもらっていいですか。」と言われましたので「お願いします。」と答えました。
息子さんと2人で体を拭いたり死に化粧をしたりしました。
息子さんは無言でしたがとても優しく、穏やかな時間でした。
全部処置が終わったあと、「抱っこしてもいいですか。」と言われました。
両足を切断し痩せたお母さんをいつものように抱き上げ、抱きしめて、声を上げて泣いておられました。
「痩せましたね。。いつもこうしてトイレに行っていたんです。」と言われ、そっとベッドに戻されました。
本当にお母さんを大切にされていた様子がよくわかりました。
介護が大変と言われる今、親を大切に最期まで付き添われた息子さんの姿に涙がでました。
その後、復職されたようですが、元気にやっておられるだろうかと思い出すことがあります。
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